広島高等裁判所岡山支部 昭和52年(ラ)10号 決定 1977年5月25日
抗告人
熊本寛
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一抗告人は、「原決定を取り消す。」旨の裁判を求め、その理由として、別紙「抗告の理由」記載のとおり主張した。
二よつて、判断するに、本件記録によると、内外興業有限会社は昭和四七年一二月二八日連帯債務者抗告人および熊本照子の両名に対し、弁済期を昭和四八年一月二八日、利息を年一割五分、遅延損害金を年三割と定めて、金五〇〇万円を貸し渡し、加藤輝久は同日右債務につき連帯保証をしたこと、その後昭和四八年一月一七日、債権者内外興業有限会社、債務者抗告人、連帯保証人兼根抵当権設定者加藤輝久の三者の間で、原決定別紙目録記載の不動産につき、極度額金八〇〇万円、被担保債権の範囲保証取引と定めて根抵当権設定契約が締結され、同年三月二日その旨の根抵当権設定登記がなされたこと、しかるのち同年四月三〇日右貸金債権は内外興業有限会社から内外興産有限会社に譲渡されたので、内外興業有限会社より債務者両名および連帯保証人に対し債権譲渡の通知がなされ、同年七月二四日には根抵当権設定者加藤輝久の承諾を得て、右根抵当権を内外興業有限会社から内外興産有限会社に移転する旨の付記登記がなされたこと、そして、内外興産有限会社は昭和五〇年一月二八日右債権の弁済を受けるため、岡山地方裁判所に対し不動産競売の申立をしたので、同裁判所は同年二月三日不動産競売手続開始決定をして競売手続を進め、昭和五二年五月四日競落人柳志吉に対し競落許可決定をしたこと、以上の事実を認めることができる。
右に認定した事実の経過に照らすと、根抵当権設定者たる加藤輝久は自ら連帯保証人となつている前記五〇〇万円の債務の弁済期の僅か一〇日前にいたつて本件根抵当権設定契約を締結しているのであり、右設定契約以後、なんら右三者間に金銭の貸借関係がなされたことについてはこれを認めるに足る資料はないから、特段の事情がない限り、本件根抵当権は右貸金債務をも担保する趣旨で設定されたものと解するのが相当であり、このことは根抵当権設定契約書および不動産登記簿において被担保債権の範囲が単に保証取引と表示されているからといつてなんら左右されるものではない。したがつて、本件競売手続は有効な根抵当権に基づいて進められたものというべく、その外記録を精査しても、本件競落許可決定をするにつき障害となる異議理由を見出すことができない。
そうすると、原決定は相当で、本件抗告は理由がないから、失当としてこれを棄却し、抗告費用の負担について、民訴法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(加藤宏 喜多村治雄 篠森眞之)
抗告の理由<省略>